By The Sea

初めての渓流釣りの人へ、街の喧騒を離れ出かけよう

カラスの選択 三つのお話

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カラスの選択 その1

大分前のことになるけどその日はフライロッドを持って渓流に出かけた。

釣り上がって行くと1羽のカラスが付かず離れず後を付いてきた。

カラスの目的は直感的にオレの釣り上げる魚だと直ぐに分った。

オレが釣り人であることをしっかりと理解しているのだろう。

きっと他の釣り人が釣った魚をこのカラスにやったのだろう、利口なカラスはその事を覚えていて他にも居ただろう釣り人よりも、オレを選択したそのカラスに謝意を述べ釣り上がった。

 

オレも時々振り返ってはカラスのご機嫌を伺うと、彼は視線を外し直ぐに横を向いた。

オカシナ事に彼がオレに対する評価を気にしだした、つまり「何て下手くそなヤツなんだ」と。

でもそれから直ぐに彼が飲み込めるような小さなヤマメが釣れ始めた。

釣れたヤマメは頭を叩き石の上に乗せ離れて行くと、彼は直ぐにヤマメを乗せた石の上に来て、器用にヤマメを咥え直し頭から飲み込んでいた。

 

何匹かヤマメを食ったら、満足した彼は飛び立ってしまった。

釣りの帰り道、上空でカラスの鳴き声がした、上空を見上げると先ほどのカラスだろうか川下の方角へ飛んで行くのが見えた。

 

カラスの その2

また、こんな事があった。

人里離れた渓流で釣りをしていると、1羽のカラスがオレとジーッと見ている。

山にいるカラスは年老いたカラスだと親父から聞いたことがある。

けれども、鳥類はその華麗で美しい羽は生涯を終えるその時まで輝きを失わない。

それ故、鳥達の年齢は見ただけでは分からない。

オレはその日、食事のため稲荷寿司を持ってきていた。

 

オレは休憩することにして背負ったリュックを下ろし珈琲を入れる準備をして稲荷寿司を取り出した。

稲荷寿司を1個、少し離れた大きな岩の上に置いてリュックを下ろした場所まで戻って見物することにした。

 

カラスはすぐさま反応した、稲荷寿司をめがけ一気に飛んできた、そして岩の上でスピードを落とすため両翼の翼をいっぱいに広げたとき思いがけない光景を見た。

 

朝日をいっぱい受けた両翼は、それはそれは深い、もっと深いグリーンを連想させた。

それは今までに見たことの無い「黒」で、オレはその美しさに茫然と立ちすくんでしまった。

 

カラスは稲荷寿司を口にくわえたんだか、足でつかんだのかよく覚えていないけど、サッサと飛び去っていった。

言葉では表現できないけど、あの時のグリーンは今でも脳裏に焼き付いている。

 

カラスの選択 その3

子供がまだ一歳くらいのとき、釣りに行けない不満を解消するためベビーカーに子供とカメラを乗せよく散歩に出かけた。

その頃はまだ35ミリフィルムがハバをきかしていた頃で、ある評論家はナントかは(メーカー名)「デジタルカメラでも作ってりゃいいんだョ」みたいな影口を言われる頃だった。

生まれて初めて買ったカメラCONTAX G1はひどく気に入ってどこへでも持ち歩いた。

 

その日、近所の保育園へ、ベビーカーを押しながら散歩に出かけた。

保育園の砂場近くにいると遠くから三羽のカラスが空中戦をしながら近づいてきた、目まぐるしくまるで曲芸を見ているようだった。

 

一対二の喧嘩らしく、戦闘機の格闘戦と同じく上空を取った方が有利で劣勢の1羽のカラスは一方的に攻撃されていた。

そのクルクル回る空中戦が俺の直ぐ近くまでやって来た、窮地に陥った1羽のカラスは大博打に出た。

一方的に攻撃されまくったカラスはオレから3メートルくらい離れた場所に着地した、攻撃中の二羽のカラスはオレの頭上を越え保育園の屋根に陣取った。

 

やられっぱなしの彼は人間でいうと、ハーハーゼーゼーの荒い呼吸で全身汗ビッショリの状態、ナンセ全身黒一色でよく分からない。

オレは彼に向かって「オメー、ウマいこと考えたな褒めてやるゾ、それに人選がいい。よくぞオレを選んでくれた。オメー、人を見る目がある」と驚かせないよう、そっと呟いた。

 

彼は忙しくキョロキョロ周囲を見ている。

たぶん保育園の屋根に陣取った二羽と、オレと、後はたぶん退路のことでカラスとはいえ一度に三つのことを思案しなければならない状態だ。

オレは彼の疲労回復の時間を作り出すため動かないようにした。

しばらく同じ体勢でいるためほんの少しだけ身体を動かした。

その瞬間、彼は屋根の二羽と反対方向に飛び立った、彼にとっては全速力を出したに違いない。

けれども、保育園の屋根に陣取った二羽も追撃に出る、高所からのダッシュのため緩い下降でスピードが出ていて、あっという間に距離を詰めまた空中戦が始まった。

 

一度は俺から離れていった空中戦がUターンしてオレ目指してやって来た。

前回と同じく逃げ切れない彼はさっきと同じ所に着地した、オレもさっきと同じく動かないようにした、攻撃の二羽も同じく保育園の屋根に陣取った。

どうも、膠着状態に入ったみたいだ。

しばらくすると、しびれを切らした二羽はどっかへ飛んで入ってしまった。

彼は立ち去った二羽を確認すると彼もまたどこかへ飛んで入ってしまった。

その間、ズーッと子供は寝たままだった。