小泉八雲、本名ラフカディオ・ハーンが書いた「怪談」は日本に伝わる怪談話を集めた本で中でも有名なのが「雪女」で誰もが知っているお話だ。
怪談という形式をとっているが、オレは立派なラブストーリーだと思っている。
不思議なことに雪女は巳之吉(みのきち)に好きだとは言っていない。
けれども、雪女は巳之吉に心を動かされたと告白している。
彼女はこう言っている。
「わたしは、お前もあの人(死んだ老人)のようにするつもりだったのよ。だけど、ちょっと可哀相になってねーーーー」
雪女は一瞬で恋に落ちたのだと思う、そして自分の思いを「可哀相」という言葉に託したのだ。
これは夏目漱石の「三四郎」にも書かれている「可哀相だとは惚れたということ」と。
この「可哀相」の言葉無しには、この物語は成立しないのだ。
そして、雪女は「お雪」と言う名の人間の女に姿を変え巳之吉の所へやってくる。
彼女は重大な決心をしたに違いないのだ。
彼女は「魔族」、「妖怪」のような、ある一族の女性なのだ、そして巳之吉への愛を成就させるため一族を捨てたに違いないのだ。
もう後戻り出来ない、細い一本道を進む雪女、彼女はどんな女だったのだろう。
彼女は巳之吉と夫婦になり、十人の子供が出来る。
十人の子供を産んでも彼女は初めて会った日のように若々しく、そして美しかった。
けれども悲劇の日はやってきた。
ある晩、巳之吉はお雪に「雪女」に出会ったことを話してしまう。
巳之吉は誰にでも雪女の事を話しても本当はよかったのだ、けれども世界中でたった一人だけ言ってはいけない人がいた、それがお雪だったのだ。
終わりを迎えたことを知った彼女は巳之吉から去って行く。
しかし、彼女は帰るべき場所が無いのだ。
一族を捨て、巳之吉を捨て、そして子供も捨てた今、帰る場所の無い彼女はどこへ行こうというのだろう。
「鶴の恩返し」とはまた違った悲劇がこの物語にはある、昔々に本当にこんな出来があったのだろうか。
雪の多い季節になると、この物語を思い出してしまう。
小泉八雲集改版 (新潮文庫) [ ラフカディオ・ハーン(小泉八雲) ] 価格:766円 |