こんなことを書いても良いのだろうか、と思ったけれど書くことにする。
オレが体験したことでは無いけど、やってみたいとも思っている。
オレはこの手の話は大好きだが慎重でもある。
主人公は「狐」、この動物は山の神の眷属ともいわれていて、有名な話が「葛の葉伝説」で陰陽師の最高峰といわれる安倍晴明の出生の伝説である。
山の中、一人で釣りをしていると普段の生活では決して押すことの無いスイッチがいきなり入ったりすることがある、これは上手く説明できない。
別の言い方をすると、野生の神秘みたいな感じだ。
亡くなってしまったけど、渓流釣りをこよなく愛した釣り師である山本素石氏の著書「山釣り」の中に「ねずてん物語序説」という随筆がある。
一般的にはこの随筆で語られる事はあり得ない話だけど、オレは北海道で起こった炭鉱事故を覚えていたので、直感的に事実であると思った。
「ねずてん」とは「ネズミの天ぷら」という意味である。
詳しい日時は書かれていないけど戦後間もない頃だと思う。
山仕事をしている湯治客から面白い話を聞く。
山本氏は渓流釣りで数釣りから大物指向に傾いていて、たまたま一緒に男湯で一緒に居た山仕事をしている湯治客から、大アマゴを欲しかったらネズミの天ぷら「ねずてん」と交換しろといわれる。
狐にとって「ねずてん」は理屈を越えた大好物で、一度見たらどんな手段を取ってでも、どんな条件を突き付けられようとも「ねずてん」を手に入れようとするのだそうだ。
山本氏は有名な相国寺の狐の話を知っていたので、湯治客の話を興奮して聞いたという。
湯治客の話はこうだ。
炭焼業の人達は炭が売れずに困ったとき、腹の据わった人は「ねずてん」を現金と交換したという。
夜になったら炭焼業の人達はネズミの天ぷらを揚げ始めると、どこからともなく里の女に化けた狐達が入れかわり立ちかわり買いに来るのだという。
化けた狐が持ってくる現金は木の葉っぱなので怒鳴りつけ追い返す、これを明け方近くまで根気よく繰り返す。
すると最後には本物の現金を持ってくるのだそうだ、そうやって大金を手にした者もいるらしい。
山本氏の釣りの師匠である秋邨先生にこの事を告げるが、笑って聞き流されてしまう。
一人では心細い山本氏は、とうとう秋邨先生を説得し実行に移すため準備を始める。
話はまだ続く。