その頃、オレはまだ若く新宿駅にいた。
次の電車を待っていると4人の女子高生がこちらにやって来た、一人だけが白い夏の制服だった。
近づくにつれその少女は驚くほどの美貌を持っていることを知った。
オレは目を疑った、この世にこれほど非の打ち所のない美貌を持つ人間が居ることに、目眩すら感じた。
オレは彼女の美貌に目が離せなかった、彼女の美しさの中で異彩を放っていたのが、鋭い目だった。
飼い慣らされたペットや家畜などではなく、彼女の目は野生そのものだった。
オレの魂を直撃する美しさだった。
例えるならば、見たことはないけどフランス人形みたいな美しさだった。
日本人離れした圧倒的な美貌だった、フランス人形なんか足下にも及ばない躍動感が彼女の美しさを更に押し上げていた。
彼女は三人のお供を従えていた。
お供は、いずれもスカートの丈が極端に長く、マスクをして、初夏でも黒っぽい冬服をきこんでいた。
肌は黒ずんでいて、どこからどう見ても普通の女子高生ではなかった。
お供の三人は彼女に対して尊敬の念を持っているらしく、お供の一人は彼女に何か聞いてもらいたいことがあるらしく、必死に何かを訴えていた。
オレの関心事は、超絶的な美貌を持つ女子高生だけであり、お供の三人はどうでもよかった。
その四人がオレの目の前を通り過ぎる、オレは金縛り会ったように動けなかった。
彼女の美貌がオレの魂を直撃してしまったから。
数年後、オレは彼女と再会した。
この現実の世界ではなく、小説と言う名の空間で。
オレにとって自分の分身ともいえる小説がある、平井和正氏が書いた「幻魔大戦」だ。
この作品では数多くの登場人物が出てくる、その中の一人が市枝という女子高生がオレの心を捉えた。
市枝はそれこそ、フランス人形みたいな美しさで、他を圧倒する美貌を備えていた。
市枝は主人公の東丈を自宅のアパートへ連れて行く必要があった。
市枝は非行少女集団のリーダーで、「クイーン」もしくは「女王」と呼ばれるほどの人気を持っていた。
市枝は自宅のアパートへ東丈を連れて行く、アパートは今にも崩れ落ちそうなほどで、建物内には異臭がこもっていた。
惨めな暮らしを見られた屈辱をしてまでも自宅に連れてきたのは理由があった。
寝たきりの弟、明雄のためだった。
不治の病を宣告されて、両親は新興宗教へ走った。
明雄の病気を治すため全ての財産を新興宗教に捧げたが、相変わらず明雄は寝たきりだった。
市枝は叫ぶ
「あんな人鬼みたいな奴らに骨までしゃぶられたって、あたしは負けないよ。
こっちが負けて、死んだって、あの鬼畜生どもには痛くもかゆくもないないんだ!
あんなインチキ宗教に凝ったバカ親が死んだって、あたしは死ぬもんか!
思いっきりふてぶてしく生きてやるんだ!」
その表情は激しく、暗く、美しかった。
「あたしは、誰にも絶対負けない。神や仏がなんといおうと負けるもんか!
世の中にはナンの借りもないからね。
それどころか、こっちには貸しがいっぱいある。
それをあたしは取りたててやるんだ・・・」
見つけた!ついに見つけた、オレは歓喜した。
新宿駅の美少女と再会できた!オレは嬉しかった。
市枝は東丈に明雄の病気を治してもらいたかった、だから恥を忍んで自宅に連れてきた。
長くなるので省略するけど、明雄と東丈は精神感応みたいなことやり、明雄は最後に笑った。
猿のように痩せこけ寝るだけの明雄が笑った、笑ったことのない明雄が笑った。
驚き泣く市枝に東丈は告げる
君が家に居たくないのは分かるが、弟と過ごす時間を作らなくてはならない。
明雄は病気が治るのを望んでは居ない、速くあちらの世界に行って家族を楽にさせたい、それが望みだ。
それ故、明雄の病気は治らない、一日中動かない身体で天井だけみて死ぬことだけを望んでいる。皆の迷惑にはなりたくないのだ。
君が本当に治ることを願っていることを弟に知らせなければ、弟は治らない。
だから君が弟を直すのだ。
オレは今でも思う、この現実の世界ですれ違うだけの時間で良いから市枝と会いたい。