【パニッシュという名のエクスタシー】
初めてパニッシュに出会ったときは驚いた、とにかく釣れた。
水深が浅いも深いも関係なく釣れまっくった。
青く深い淵から水面直下を泳ぐ、55㎜フローティング・ミノーのパニッシュ目掛け、一気に駆け登るビックワン、もう何もかも夢のような世界だった。
オレは酔いしれた、全てを忘れ酔いしれた。
けれども、幸せは長く続かなかった、ミノーが一般的になるとユックリと、絶望感がオレに襲いかかってきた、釣れなくなったのだ。
恋愛と同じでバラ色の日々が、深ければ深いほど、その反動は凄かった。
力のベクトルが、幸せの絶対値を保ったまま、大きな音を立てひっくり返ったのだ。
【スプーンとの邂逅】
その日も釣れなかった、何気なく目に入った2.5gのスプーン、オレにとってはただ金属をヒン曲げた、金属の塊にしか見えなかった。
スプーンに対する熱量は、遙か彼方に置き忘れ、オレは取り戻そうともしなかった。
オレはなぜか、恐る恐る2.5gのスプーンを、目の前の淵に投げ入れた。
漂っているのか、沈んでいるのか、まったく興味がなかった。
オレはただ竿を持って居るだけの、デクの棒だった。
その瞬間はやって来た、鋭いアタリがオレの手にやって来た。
ヤマメだ、アワセるでもなく、オレは立ちすくんでしまった。
ミノーの呪縛から、解き放された瞬間だった。
【流れに乗せる、落ち葉のように】
ワラにもすがるような思いで、スプーンを投げ続けた、オレは原点に戻らなければならなかった。
最初に覚えた餌釣りを、スプーンに置き換えることにした、川虫やミミズをスプーンに置き換えた。
スプーンでの釣りは、圧倒的にアップストリームの釣りが多い、上流にスプーンをキャスト、適度な水深を維持し流れに乗せる、つまり流れと同調させる。
この時スプーンは引かない、当然スプーンは沈み根掛かりするので、ロッドを上げてスプーンを持ち上げる、スプーンを操作するのはこの時だけ、後は流れにまかせる。
上流から立ち位置にスプーンは流れ戻ってくるので、リールの役目は余ったラインを巻き取るだけになる。
イメージとしては、木々から落ちてくる落ち葉を、一本の流れの中で再現させる。
マァ、そんな感じだ。
【印象的な西山徹氏の言葉】
忘れたけど、マーシャル渓4.8gに出会ったのは、そんな時だったと思う。
今は亡きダイワのテスター、西山徹氏の言葉が頭の中に残っていて、「フライフィッシング・100の戦術」の著書の中で、魚は細長い物に興味がありそうだ、みたいな感じの文章が頭の隅にあった。
よく行く上州屋には最初の頃は、フォレストのマーシャル渓4.8gがあった。
けれども、いつの間にか消えてしまった。
人気がなかったから棚から消えた、オレはそれをチャンスと捉えた、多くの渓流釣り師は「こんな細長いルアーは釣れないだろう」と思ったと思う。
【人には見せなかったスプーン】
オレは細長いスプーン、マーシャル渓は人には見せなかった、人に見せるのはスタンダードの形をしたスプーンだった。
オレはケチになったのだ、もう絶望の淵に立つのは真っ平だった。
実際、マーシャル渓はよく釣れた、さらに戦果を求めるようになり、フックにテンセルや魚皮を付けるようになった。
【スプーンの魔力】
そして2021年、令和3年オレは狂喜乱舞した、INX.label(インクス・レーベル)からナッゾブレードが発売されたのだ。
以前からバスフィッシングのスピナーベイトに興味があって、スプーンにブレードを付けて釣っていたけど、なんせブレードがデカすぎて、結局ただの一匹も釣れずブレードを諦めていたからだ。
オレはこの小さなブレードに、夢中になった。
スプーン、ミノー問わず、ナッゾブレードを付けまくった、特にスプーンとナッゾブレードの組み合わせは、オレの心を捉えて放さなかった。
最近思うのだけれど、ナッゾブレードを付けたスプーンを見ると、ブレードって実はスプーンなのじゃないかと、形も似ているし、どっちがスプーンなのか解らなくなってしまった。
スプーンの魔力、確かにそのような物があるのかもしれない。
オレは再び立ち上がらねばならない、躍動する心を持った一人の少年のように。