だいぶ前、若い頃に職務質問されたことがある。
そうでなくとも、身なりには気を掛けたことがなく、ビンボウたっらしい姿だったと思う。
実際金は無く、身につけいている物はいい加減くたびれていた。
ある日、オレは公園のベンチに座っていた。
暑い日で木陰のベンチは居心地が良かった。
公園にはオレ一人だった、そこに二十代後半の男と、五十代の男が、オレが座っているベンチにやって来た。
オレは直ぐに警察関係者だと直感的に分かった。
彼ら二人だけが公園の雰囲気と違い、浮き上がっていた。
彼ら二人は警察手帳を見せ、中年の刑事はオレの横に座った、若い刑事は中年の刑事の後ろに立った。
初めての職務質問に、オレはタダ簡潔に答えるだけだった、それが精一杯できることだった。
免許証、小銭しか入っていない財布、ボロボロになった電車の定期入れ。
ある物全部、見せるよう要求した。
そのうち職務質問の内容が変わった、この職務質問の内容を一切覚えていない。
けれども、職務質問の内容が変わった時点で、中年の刑事の異常さに気がつき始めていた。
何かがオカシイ、若い刑事もそのことに気づき。
「○○さん、もう行きましょう」
と職務質問の中止を要求した。
しかし、中年の刑事は止めなかった。
更に質問をオレに向けてきた。
オレは答えなかった、沈黙を保った。
オレと若い刑事は、中年の刑事の異常さに圧倒された。
オレの中に何か、中年の刑事の興味を引きつける何かがあるようだった。
そのうち若い刑事が、中年の刑事の腕を直接掴むと、強引に公園の外に連れて行った。
今だに職務質問の内容が思い出せない、覚えているのは頭の中に鳴り響く警戒音と、低い位置からオレを見る中年刑事の目だった。