渓流で出会いたくない動物の筆頭が、熊さん。
パワー、スピード、ウエイトでまず勝ち目は無い。
一度、車の前を走って横切るツキノワグマを見たことがある、それも国道で。
何より驚いたのが、しなやかな走り、ドタバタした走りでは無くゴムを連想させる動きだった。
あと、色だ、真っ黒はビックリするほど目立った。
釣りで一度だけ熊に出会ったことがある。
少し離れた岩の上に黒い動くモノがあった、最初はカラスだと思ってた。
そしたらオレに近寄って来るではないか。
ヨクヨク見たら、な、な、ナント小熊だ!!!!!
って、ことは母熊が近くにいる、オレは監視されている。
そう思った瞬間、動けなくなった。
話には聞いていたが、動けない、自分で自分の身体を制御できないのだ。
オレはユックリ時間を掛けて方向転換をした。
走ること自体ができない、カクカクした動きでとにかく歩いた。
どれくらい歩いたか、距離をとったか記憶にない。
覚えているのは一度も振り返らなかった事だけ。
ニホンカモシカにも出会った。
カモシカは渓流で休んでいたのだと思う。
オレもカモシカもお互いに接近に気づかなかった。
目の前にデッカイ岩がある、そう思っていた。
オレはその岩に手を掛け、避けようと手を伸ばした瞬間だった。
デッカイ岩が動いた、岩が立った。
ナント岩だと思っていたが、ニホンカモシカだった。
オレもカモシカも双方、お互いに、二人とも盛大にビックリした。
それからのカモシカの行動は驚くべきスピードだった。
あの巨体が軽々とジャンプしながら走る姿は、まるで背中に羽があるような気さえした。
というよりも、体重を感じさせないジャンプだった。
斜面を掛け上がる姿は野生動物だけが持つ、パワー、スピード、そして美しさだった。
カッコイイではない、野生の美しさだった。
オレは呆気にとられながらカモシカを見ていた。