【食器とメッセージ】
オレは酒を飲めないが、友人はよくオレを誘って飲みに出かけた。
オレに出された料理の食器が、よく欠けていることに気づき始めていた。
「またかー」程度に思ってたが、度重なるとそうも言っていられなくなった。
この事が、ある種のメッセージであることに気がついたのは、おめでたい披露宴だった。
オレはまだ独身で、年齢的に近い友人、知人、親類の結婚式に呼ばれることが多かった。
何度も披露宴の席で、奇妙なことが起こった。
俺の席で出される料理が盛り付けられた食器が欠けているのだ、食器や乾杯用のグラスが欠けたり、ヒビが入っていた。
格式の高いホテルでの結婚式でもそうだった。
【偶然なのか必然なのか】
あるホテルでの結婚式に出席することになった。
ついにオレは「あれ」が偶然なのか、それとも必然なのか確かめることにした。
オレは席に着き、周りを見渡した。
あるテーブルに乾杯用のグラスが、高く積まれているのが目に入った。
何気なしにその積まれたグラスを見に行った。
驚くことに盛大にヒビの入ったグラスが一個だけあった、それも目立つと思われる一番上に。
派手にヒビの入ったグラスなのに、誰一人として気づく者がいない、オレは呆気にとられそのグラスを見つめていた。
あのグラスはオレの席に置かれるのだろうか?
オレは席に着いた、乾杯用のグラスが運ばれてくる。
オレは静かにグラスが運ばれてくるのを待った。
目の前にグラスが置かれる、ある種の期待と不安を抱え、それを見た。
あった、目の前にあの盛大にヒビの入ったグラスが、あった。
オレは笑うしかなかった、実際少し声を出して笑ったような気がする。
オレはすぐにホールスタッフを呼び止め、交換を申し出た。
ホールスタッフは何度も頭を下げ、詫びを入れすぐに交換してくれた。
オレもなぜかホールスタッフと同じくらい、何度も頭を下げ、そして笑った。
【メッセージ】
偶然ではなかった。
黙っていれば分からないものを、わざわざオレに向けてメッセージを送りつけたのだ。
あの二人からのメッセージだった、つまり・・・。
「片時もお前から目を離さない、狩りは終わったわけではない」と。
狩られる側のオレにとっては、イイ迷惑だった。
たいした能力があるわけではないし、気の利いた呪文を唱えるわけでもない。
圧倒的に状況はオレにとって不利なのだ。
オレは過去に区切りを付け、清く正しくヘラヘラ笑って、毎日を暮らさなければならない。
方法はそれしかなかった。
訳の分からない拝み屋風情に駆け込むのは、あの二人にとっては願ったり叶ったりに違いないのだ、お互い同業者なのだ。
悩みは時間が解決してくれた。
「狩りは終わったわけではない」のメッセージは、たぶん今でも有効なのだろう。
「片時もお前から目を離さない」、は気が滅入ることだが、オレにとっては良い教訓になった。
時々ではあるが、彼ら二人からのメッセージを思い返して生活している。
だからどんな辛いときでも、ヘラヘラ笑って暮らすようにしている。