長い間、渓流釣りをやっていると川で転倒する事がある。
その場で尻餅をついたり、つんのめったりしたり結構な回数がある。
それはほんのチョットしたことからが多く、無意識で行動している時が多い。
対岸に渡ったり、沢に立ち込んで釣りなどは細心の注意をしているため大きくバランスを崩すようなことは無い、単独行動の釣りでは流された場合を想定して釣りをする。
オレの場合、早春と雨の時を除きウェーダーは履かない。
綿パンにネオプレーン素材の膝くらいのスパッツ、ソックス、そしてウェイデングシューズの組み合わせ、これでジャブジャブ水の中に入って行く。
もちろん濡れるが、暑くなる初夏からは最高!
渓流釣りを始めての頃、岸寄りの渓流をジャブジャブさせながら釣り上っていた。
いきなり、ナンの前触れも無くオレは転倒した。
この瞬間から記憶が無い、どんな体勢で転倒したかも記憶が無い。
突如、水面の境が見えた、水面から上が新緑の木々が見える、水面の下側には泡だった渓流と岩が見えた。
二つの世界が同時に見えると「オレは流されている」と悟った。
気がつくとオレは岸に茫然と竿を持って立っていた。
それまでの記憶がない、事故に遭うとはこんなことなのだろうか。
もう一つは深い淵がある所を慎重に移動していた、例え転倒しても岸が直ぐ側にあり手を出せば容易に手がかりを確保できる場所だった。
その時もウェーダーは履いていないが、Dバックを背負っていた。
同じく、ナンの前触れも無くオレは足を滑らせた。
足から先に水中に入り、すぐさま頭を水面から出すため足をバタバタさせた。
しかし、頭が水面から出ない、なぜだか頭が水面下に固定されている。
嫌でも水面下の世界が見えた、水中の世界だ。
川底、大きな岩場、そうして水の流れまでも何故か見える。
それは黄泉国を連想させた、ここは人が住む場所では無いと思った瞬間、パニックに陥った。
今回は記憶喪失ではない、オレは生きたいと思った。
突然、顔が水面上に出せない理由が分かった。
Dバックが浮き袋の役目をし背中だけが水面に出ていたのだ、理由が分かると体勢を入れ替えるのは簡単だった。
すぐさま岩場に手を掛け上がった、竿はそこにあった。
ウェーダー無しの渓流釣りは慣れると爽快で軽快です、安全のためにも一度お試しあれ。